『嵐をつかまえて 』 ティム・ボウラー 

今までに読んだティム・ボウラー「川の少年」「星の歌を聞きながら」とはずいぶんイメージが違う物語で、なんとなく不気味な雰囲気にまずびっくりしました。

最初に出てきた不安そうな少女エラが主人公かなと思ったらいきなり誘拐されてしまう。
彼女といっしょに留守番していなければならなかったはずの兄フィンがこっそり友人の家にでかけていた留守のことでした。
自分のせいだ、と悔やみ、妹を取り戻すために藁にもすがりたいフィンの思いがずんずん伝わってきました。
そして、この兄弟の末っ子サムの不思議な行動、言動。これらがこの事件とどう結びついていくのか、興味津々でした。

いきなり誘拐から始まって物語はサスペンスタッチで一気に進展していくので、それこそ目が離せませんでした。
やがて、隠されていた秘密が明らかになってきます。

不思議なファンタジーっぽい要素がからんでくるのは、前に読んだ2作と共通しています。そして、不思議な要素が自然に現実の物語に溶け込んでいる、魔法に頼った解決ではなく、人間が人間の力で解決しようとする姿勢、解決できないものを背負っていこうとする姿勢がつらぬかれているところが、好き。この作者の魅力かなあ、と思っています。

事件は解決しましたが、本当の始まりがこれからでしょう。
これからこの家族はどうなっていくのか。再生はあるのか、ないのか。
作者は絶えず温かいまなざしをこの家族に向けているように感じるのですが、安易なほのめかしは敢えて避けているような気がします。
お互いが真摯に、現実と向かい合い、新たな家族関係を模索すべきときに、安っぽい約束はいらない、そんなふうに言っているような気がします。それが却ってすがすがしい。
それでも、あの夜中に、エラが階段の上から呼びかけた言葉にじーんとなってしまう。
彼女自身にとって大切な一歩だったと思えるから。
また病院の彼の再生も、強く願わずにいられません。サムの不思議な力が温かく染みとおっていくよう。家族みんなにも。