『火のくつと風のサンダル 』  ウルズラ・ウェルフル 

靴屋の息子ティムは、ちびでデブで、子供たちの笑いもの。「違う自分になりたい」というティムに、おとうさんは素晴らしい誕生日プレゼントを用意します。
おとうさんの作った新しい赤いくつをはいて、夏休み、靴直しをするおとうさんと一緒に徒歩旅行をする。
おまけにおとうさんは赤いくつを履いたティムに新しい名前をくれます。「火のくつ」と。そして、緑のサンダルを履いたお父さんは「風のサンダル」と名乗るのでした。

お金を稼ぎながら、その土地の民家や納屋にとめてもらい、ときには野宿の旅は、今の日本に暮らすわたしたちにとっては、そのままファンタジーです。

行く先々で、子供たちと友達になったり、いさかいしたり、農家の牛にふりまわされたり、森に迷ったり、ホームシックに罹ったり。
楽しいことばかりでなく、がまんしなければならないことに出会うとき、おとうさん、あ、いえ、風のサンダルは、お話してくれるのです。とてもたくさんのお話。
一つ、難を言えば、風のサンダルおとうさんのお話が教訓的で、お薬みたいなことと、このお薬が火のくつティムに良く効きすぎるように感じたことでしょうか。

ほがらかで素直なお話です。
おとうさんの、落ち着いていて、でも、子供の目の高さまで下りてきて物を考える感じがいいです。
この旅からティムはひとまわり大きくなって帰って来ます。
そして、これまで自分が悩んでいたことをしっかり乗り越えます。これまでお父さんに語ってもらったお話のかわりに、自分で作ったお話で。
真剣に子供と向き合うおとうさん。ああせい、こうせい、というのではなく、子供が自分で自分を乗り越えるまで、黙ってしっかり見守り、とことんつきあうおとうさん。
わたしたちのだれが、こんな素敵なお父さんに(または、家で待つ朗らかで思慮深いおかあさん)に成り代われることか、と思うのです。