『空のひきだし』  いせひでこ

画家いせひでこさんのエッセイ。
いせひでこさんの絵本「雲のてんらん会」に出会ったとき、この人好き、と思いました。さまざまな表情を見せる様々な形の雲たちを空から切り取って、額縁に入れて見せてくれる「雲のてんらん会」
この絵本は、見る人の心のありようで、いろいろな表情を見せるのだと思いました。
その「雲のてんらん会」と前後して書かれたこのエッセイには、空の雲を追い求めながら、様々な日常の光景や思いを切り取って見せてくれる、その心模様に素直に共感しました。

特に好きなのは、一番最初の詩「はぐれ雲」
ある男をうたった詩。人と話すより犬と話すほうがすきで、旅人で、絵描きで、なまけもので、老人で、病人で、少年だった。そして、それは、著者の父親であり、天国へのぼった。

父を亡くし、愛犬を看取り、日常のさまさまな小さなやるせない思いを、発達する積乱雲に託して描いたり、それでも、ささやかに暮らす、広い広い空の、雲を眺めながら。

わたしも雲を眺めてみよう。雲のかけらに沈み込んだ赤や黄色やオレンジ、緑、ピンク・・・色のかけらをさがしてみたくなりました。
そして、そこに、わたしの物語をさがしてみたい。
ごちゃごちゃした雑事に埋め尽くされたようなわたしの日常のなかの輝きに目をとめていたい。
そうしたら、きっと、いせひでこさんと心通わせ、黙ったままで会話が出来るような気がするのです。