『サティン入江のなぞ 』 フィリパ・ピアス 

表紙は荒涼とした海岸に女の子(主人公ケート)がひとり立っている絵。ここがサティン入江です。
この荒涼とした風景と、ケートの家庭のなんとなく居心地悪くて不安な感じが、妙にオーバーラップしてしまいます。それは、そのままケートの内面の姿でもありました。
ケートは孤独です。友だちはいる。いつも一緒にいる仲良し。だけど、自分を洗いざらい見せることはできない。しっかり距離を置いている。たぶん、本当に大切な誰かではなくて、一人でいずにすむから一緒にいる、そういう友だち。

どこがどうというのじゃないけれど、なんとなくすわりの悪い生活。この生活は1ピース足りないジグゾーパズルのよう。
おばあちゃん宛に届いた謎の手紙と、おとうさん(ケートが生まれた日に海でおぼれて死んだ)のお墓が消えてしまったことに気がついたとき、ケートは、足りないジグゾーパズルのコマをさがすように、自分の家族の秘密をさがし始めます。

大人たちみんな何かしら卑屈な陰を感じてしまい、好きになれませんでした。
ただ、ナンだけ。ケートに「巌」という言葉を与えられたナンの静かな強さに感動しました。

ここにあるのは緻密に組み立てられた真実。ミステリー仕立てで、不思議を紐解いて見せてくれます。
自分の目で見ることも耳で聞くことも、ちゃんと考えることもできない愚かな大人になりかわって、
ケートの、ひたむきな会ったことのない父への思慕と、真実を求めようとする純粋な勇気によって、家族が新しい出発に向けて動き出します。
と同時に、目隠しされた子ども時代に別れをつげて、思春期に踏み出す少女の姿をも暗示されているように感じました。

新しい出発を見据えたハッピーエンドですが、何もかもすっきり解決するわけではないのです。大人たちそれぞれに、新たに向かい合わなければならないさまざまなものを残していきます。それぞれがそれぞれの方法で…これもまた新たな内面への旅の出発かもしれません。
少女はこうした大人たちを静かに見つめながら、人生の扉を開けようとしているのです。しっかりした子どもです。ひ弱に見えるけど、子どもは決してひ弱じゃない。