『ムーン・キング 』  シヴォーン・パーキンソン 

母親の再婚相手による虐待のため、リッキーは、何人もの子どもを預かっている里親に預けられる・・・
だれとも口を利こうとしないリッキーですが、その心のなかではいろいろな感情がうずまいています。

自分のことをクモの子と思い込みたがるほどに傷ついてるリッキーが安息の場所をみつけ、友情を獲得し、自分の殻を破って外へ出て行く物語です。

この家族のなかの子供達は、リッキーと比べると、にぎやかで行儀が悪く、ほがらかで、ごく普通の子供達のように思います。
しかし、本当はみな、さまざまな場所で傷つき、本当の家庭にいられなくなった子供達です。
そして、お互いの傷の深さを知っていて、だからこそ触れてはいけないところを回避しあってたりするんだ、ということ。
相手の事情をうすうす知っていながら、あたりまえのように受け入れて、ただ仲間になれるやさしさに驚き打たれました。
そのことは、リッキーに対するヘレン(彼女だけがこの里親の本当の娘であり、それはそれで、傷つきもがいている)のひどい嫌がらせがあからさまになったときの子供達の言葉に表れているようでした。

子供達の心がとても繊細に描かれていて、特にヘレンがいきいきとしていて、ある意味共感してしまった。
でも、おわりのほう、あまりにもきれいに解決してしまって…うーん、ヘレンが急に遠ざかってしまった。この子にはきっとこれからもドラマがありそうな気がします。
しかし、リッキーの心の声は、ピュアでひとりぼっちで、心を打ちます。
それだけに、彼の最後の言葉には、心が熱くなるのです。

どこかに「帰りたい」と思える家があるって幸せなこと、と改めて思いました。
ものがいっぱいありすぎて片付かない、いつもがちゃがちゃと騒々しいこの家、それは、乱雑というのではなくて、おおらかな住人の人となりを伝え、住み心地のよさを伝える魅力的なおうちでした。この家族の別の物語もあっていいよね、とそれぞれの物語を想像したくなりました。