『ぬすまれた宝物』 ウィリアム・スタイグ 

くまの王様の宝物殿の見張りをするのは、王様の信任厚い正直者のがちょうのガーウェイン。
ところが、ある日、この宝物殿から、宝ものがこっそり盗まれます。毎日すこしずつ・・・
宝物殿の入り口はひとつだけ。その鍵を持っているのは王様とガーウェインだけ。
ガーウェインは疑いを掛けられ、投獄され、裁判にかけられます。
堂々と頭を上げて、潔白を訴えるガーウェインでしたが、今まで友だちだと信じてきた人たちが疑いをもって、あいまいに顔をそむけるのを見て傷つき、友だちにも王様にも愛想をつかして逃げ出します。

さて、その後、ガーウェインの潔白が証明されることになるのですが、肝心のガーウェインはもういない。
逃げ出したガーウェインの不幸。
そして、彼を信じることのできなかった友人達の不幸の描写に圧倒されます。この惨めな人たちが他人ではないような気がして。

可愛らしい童話、なんともいえない諧謔味のある、おなじみのスタイグの童話です。しかし、このかわいらしくほのぼのとした絵と語り口のなかに、厳しい現実をまざまざと見せ付けて、震え上がらせてくれます。 シビアな友情物語です。
誰の心にも潜んでいそうな不安定な部分にぱっと光をあてて、あなたならどうするのか、どうするのか、どうするのか、と迫るように、ぐいぐいと押してきます。

走れメロス」のラストシーンのような場面で物語は終わります。三人(誰と誰と誰でしょう♪)の厚い友情に、幸せな気持ちで読み終わらせてくれます。
あけっぴろげなめでたしめでたしではなく、こんな一文を添えるところが大人っぽいです。
  >もういちど、みんなを好きになることはできましたけれど、
   みんなの欠点がわかったので、
   こんどは、かしこいやりかたで、みんなをすきになりました。