『くまって、いいにおい 』  ゆもとかずみ

  森の奥にいいにおいのくまが住んでいました。
  森の動物たちは、悲しいことやこまったことがあるたび、
  くまに悩みを打ち明け、くまのにおいをかぐと、
  ふしぎと気持ちがおちつきます。
  でもくまは、みんなの悩みを聞いてばかりでつかれてきました。
  すると発明家のきつねが「においを消す薬」をくれて…。 
                        ――アマゾン・レビューより――


いい匂い。もしくまの匂いがびんづめの香水だったら、あんまりいい匂いじゃないんだけど、くまと話してる時はくまの匂いはいい匂い。と言うねずみの言葉に、思わず、にこーっとしてしまいます。
お日様の匂いに似てたり、クッキーの焼ける匂いに似てたり、鳥のひなの匂いに似てたり、夏の水溜りのにおいに似てたり・・・
そういう匂い、わかるなあ、と思います。うちのインコのピーちゃんの匂いや、無心に遊んでいる子どもの匂いとか・・・香水には絶対ならないけど、温かくて、やさしくて、すごくいい匂いです。

「いい匂い」に理屈はいらない、ただ、いい匂い。
おもしろい視点だなあ、と思いました。何で匂いなんだろう。
読んでいて思ったのは、みんなが「いい匂い」というくまのにおい、このくまを嫌いな人にとっては、すごーく嫌なにおいになるんだろうな、ということ。
「におい」に掛けて、人の気持ち、隠そうとしてもにじみ出るその人らしさ、そういうものを言ってるみたい。
ちょっと大人っぽい本かもしれません。(幼年童話だけれど)

途中、じんわりとさせながら、そのままほのぼのと終わらない、最後にぽーんと読者を天井に放り投げてくれた、と思わせる、あの小粋な終わり方もよかったです。

うん、きつねはかせ、好きです。なかなか粋で味のあるキャラクター、くまよりずっと好きです。
悩みがあったら、くまではなくて、きつねのほうに行きたいよ、わたしは。安心するより、自分の悩みがばかばかしくなって笑い出してしまうに違いないもの。

あとがきの湯本さんのことばがとてもいいです。ほんわかと温かくて。
そして、ほりかわりまこさんの絵がいい。表紙の絵は、特にいい。ほのぼのとして、あたたかいんだけど、どこかおかしくて。
2005/1