『ガラスのうま』 征矢清

ちょっと懐かしいような匂いがする幼年童話です。
「「じゅうじゅういうねぼけ声」
「(おだんごが焼けるとき)じりじりぶつぶついっていました」
「(火の玉のかけらが)たんたんたんと、はずむようにおどりまわりました」
「(雨粒が)ガラスのうまのせなかで、ぽろんぽろんはねました」
・・・こんな擬音に出会えるのですから、なんだかうれしいような懐かしいような気がしてきます。気持ちのいい「おはなし」用の文章だと思いました。声に出して読みたい感じです。
そして、おさだまりのハッピーエンドに進んでいくのを安心して追っていけるのです。

日常とファンタジーが入り混じったお話はそのまま子どものごっこ遊びの世界ではないでしょうか。
最後に山のかあさんが本物のかあさんに変わって、すぐり(主人公の男の子)を待っていてくれたとき、ごっこ遊びが終わって、安心できる場所に帰ってきたのだね、という気がしました。

戸棚の上から飛び降りて足を折ってしまったガラスの馬を追いかけて、すぐりは、さまざまな障害を越えて行くのですが、いきなり、馬が出てきて、あっという間に足が折れてしまったように思いました。このガラスの馬がすぐりにとってどんなに大切な存在であるかということが、あまり感じられませんでした。
そのため、この子がこんなに大変な思いをして馬を追っていく意味があまり見えなくて、なんだか、その点だけが残念に思えました。
,br> ガラス山のかあさんのおだんごが焼ける描写は本当においしそうでした。中身がもちもちして外はかりかりで、あつあつなんですよ♪
それから、林明子さんの挿絵。抱き上げたいような子どもの絵、ガラスの家のおじさんたちの踊るような影も、いきいきとして、素敵でした。