『ブリット・マリはただいま幸せ』  アストリッド・リンドグレーン 

この作品が日本で出版されたのは2003年、ごく最近です。が、実は、リンドグレーンの幻のデビュー作といわれるものだそうです。
少女向け懸賞小説に応募して、2等賞を勝ち得た作品だそうで、
  >わたしの最初の本、『ブリット・マリはただいま幸せ』が
   賞を取ったとの知らせを受けた時ほど、
   うれしい気持ちになったことはありません。
   そのときは、息子の部屋にとびこんで、おどろいている彼の目の前で、
   黙って、すごい勢いで勝利のダンスを踊りました。  (あとがきより)

主人公のブリット・マリは15歳。田舎町に、仲の良い両親と五人兄弟、という家庭。
物語は、ブリット・マリがストックホルムに住むカイサという少女への手紙という形で進行します。「あしながおじさん」のような感じです。

ティンエイジャーらしいユーモアと日々の他愛もない歓びの中に、しっかりと地に足のついたものの考え方、これからの人生への憧れ。楽天家で度胸もあるけど、わりと堅実な女の子、頼もしいです。

この家族のなかに、のちのリンドグレーンの名優(?)たちの姿がちらちらと垣間見えるような気がするのもうれしいことでした。
うれしいことがあると夕飯の料理が乗ったままのテーブルを、それを囲む家族全員でちょっとだけ持ち上げてしまうこのほがらかな家族は、「やかまし村」のリーサの家族を彷彿とさせます。一番歳の近い弟スバンテとはしょっちゅう仲のよい衝突を繰り返しますが、まるで、ラッセやボッセがいるみたいだし、
「ロッタちゃん」みたいな末っ子もいます。
それから、ブリット・マリ本人のなかには「ながくつしたのピッピ」の毅然としたまっすぐさがあるような気がします。
少しだけむかしの、家族(?)の物語のいい感じがします。

すぐにすぎてしまう少女時代だから、ぴんとして生きるのよ、という作者の子供達に対するメッセージでしょうか。どの子供達にも幸せなこども時代を過ごす保証をしてやりたいという願いでもあると思います。
この本が書かれたのは第2次世界大戦の真っ只中。
スウェーデンは中立を守っていたものの、スカンディナビアの兄弟国デンマークノルウェーナチスドイツの占領下にありました。(あとがきによる)
暗い不安な時代に、この染み入るような幸福の物語が子供達に手渡されたことの意味の大きさを思わずにいられませんでした。