『プラハ旅日記』 山本容子

銅版画家山本容子さんの旅日記です。
山本容子さんの旅は出かける前から始まっている。
持参するスケッチブックを選ぶところから。
街のイメージから紙色を選ぶ。
今回のプラハの旅に同行したのは、シックなグリーンの皮製の表紙がついた、真っ赤なノート。

この本の表紙は、山本さんのノートのグリーンの皮表紙の写真。
各ページに、赤いノートのページの写真がそのまま見開きで置かれて、
その上のほうに、細かい文字で、ちょこっとコメントがつけられた、
しみもよごれも、鉛筆のかすれもそのままの、
はさまれたコースターや美術館のチケットやパンフレット(著者の落書き付き)、紅茶のティバッグもそのままの、
また、マンホールに施された美しい文様(すりへりかたもまた美しい)の上にあてたページの上からえんぴつでこすって写し取ったページもそのままの、
それから、プラハ城で摘んだ草花の押し花(珍しくもないスミレとハルジオン、というのがまた美しい)もそのままの、
思いで深い旅の日記帳でした。

クリスマスのような赤いページに白と黒の鉛筆でさっさっと描かれたスケッチと走り書きの文字。ときどき、さあっと刷くようにあっさりと彩色された絵。
赤いページというのは、プラハという街に良く似合う、と、行ったこともないのに思ってしまうのでした。
カフカカレル・チャペックが仕事場にした街。
この街の人々が愛するのはビロードのような泡のたつビール。
伝統と未来とがしっくり交じり合った人形劇。
迷路のような街路。
わたしは、山本容子さんのスケッチのむこうにプラハの街を眺めて、街の匂いを嗅いでいます。
美しい文様が程よく磨り減ったマンホールの蓋を踏みながら迷路のような街路で迷い、ハンサムな、よく似た顔立ちのおまわりさんたちを眺め、ハルジオンがいっぱい咲いている野原からプラハ城を眺めているような気がしてくるではありませんか。
紅茶をティーバッグで出す安いカフェで、ヨゼフ・チャペックの美術館を思いながらチケットを眺め、今いれたティバッグのパッケージのかわいいデザインに気がついてにっこりしている気分になります。
そして、見知らぬ街をひとりで楽しくほっつき歩いているのです。
豪華な本です。もっているだけでうれしくなっちゃうような本です。