『れんげ野原のまんなかで 』 森谷明子

ススキ野原のまんなかの、土地柄のせいか、来館者も少なく暇をもてあましている秋葉図書館。
そこに勤める文子の視点で、季節の移り変わりにからめて綴られる、五つの連作短編ミステリーです。
描かれる事件は、日常のなぞ。しかし、その謎もいろいろ。ほのぼの静かに暮らしている人々に、暗い落とし穴のうような秘密があったり…
図書館で起こる小さな事件(?)に、真っ正直に挑もうとうする文子をなだめながら、謎を鮮やかに解いてみせてくれるのは、文子の先輩であり同僚であり、ほのかな憧れを寄せる能勢さん。
このふたりの関係はなんとなく北村薫の「円紫さんとわたし」の関係を彷彿とさせました。
また、心優しい同僚や、他の登場人物たちに、和んでしまいます。

物語どれも、それぞれに余韻があり、ほのぼのとおもしろいのですが、一番好きなのは、二話でした。
なんともゆかしい謎でした。
「白雪姫」の最終的な選択については、ちらっと「別の選択をしてもいいのに」と思いましたが、やはり、誇り高く奥ゆかしく気品を持って、しかも毅然とした姿がいいです。

この本のなかに、いくつかの恋が描かれていましたが、いすれもあざとさがなく、ほほえましいのです。
まるで、いにしえの恋人たちが和歌を交換しあっているような感じで…
そして、気持ちの揺れが丁寧に丁寧に綴られている。
なんとも不器用な感じが、いいです。
そして、雰囲気です。本好き、図書館好きには、たまりません。
キイワードは、
 「図書館浴」(p127)
  =本に触れる仕事からエネルギーをもらい、仕事に打ち込むほどに心穏やかに元気になっていく
なんとも羨ましい話ではないですか。
仕事しながら、自分のお気に入りの作家の本(ノートンやサトクリフ)の背をそっとなぜていく癖のある司書さん。
ただ「いい本ですよ」という言葉だけで、本を薦めてくれる司書さん。(で、本当にそれはとってもいい本)
みなさん、羨ましすぎます。
それから、何よりも魅力的だな、と思ったのは、随所に仕掛けられた本をめぐる小さな謎かけです。読者相手に「この本はなんでしょう、あててごらん」と、作者のいたずらっぽい微笑みを感じてしまいます。
たとえば、一話のテーマ、あの児童書。ね?
二話の絵本「しらゆきひめ」はあの人の絵の、あれだ。
それから、5話の紅い表紙のあの本。ね?
「あれ、これは? …あ、知ってるかも。」と、読者に考える時間をたっぷり与えてから、ゆっくりと自然にタイトル名を出してくださるんです。
わくわくしちゃいました。でも、いつ答えが出てくるかな、と思っていると、中には解答がないのもあって…わからないのがありました。
で、<教えてくださ~い>
P229の、あの本、なんというタイトルでしょうか。きっと有名な本なのでしょうね。
しっかり張った顎をもった颯爽とした女性が出てくる本。黄色い背表紙の文庫本だって。
これはわかりませんでした。降参!

また、(他のどんな施設も長くいたら、やんわりと追い出されるであろうに)長くいる利用者が歓迎されるのはおよそ図書館だけであること、 利用する人の目的など、様々、様々…
世界が広がったような気がします。そして、図書館がますます好きになりました。ああ、図書館に行きたい!

続きがでないかしらね…