『ねこが見た話』   たかどのほうこ

この本には、のらねこが見た4つのお話が収められていますが、4つともそれぞれ、少しずつテイストが違います。ナンセンスだったり、ホラーっぽかったり、シニカルだったり…
共通点は、みんなちょっと不気味で、どこかとぼけていて、おかしいのです。
なんじゃこりゃと思っていると、最後はなんとなくほのぼのとさせてくれる。しかもオチがひとひねりもふたひねりもされたところが、一筋縄ではいかない。へそまがりー!でも、いい!
目のつけどころも、「ベートーベンと弁当」とか、それほど珍しくもないのですが、料理のしかたがうまいのですね。
決して甘ーいハッピーエンドが待っているわけじゃなくて、なんだか狐につままれたような…でも、ある意味これでいいわけ、だよね。収まるところに収まってるし、ま、いいかあ。深く考えると大変だけど、何しろ、見ていたのは、ねこですから。と納得してしまいます。

そうなのです。
猫の目線というのが、いいんです。これ、人間の世界だけの話だったら、ぎょぎょぎょって感じで、不気味さだけがもっとクローズアップされてしまいそうな感じですが、猫の目を通してわたしたちも眺めている。だから、わりとさらっと、深追いすることもなく、不思議を不思議なままに受け入れておもしろがっていられるのかもしれません。


好きなのは「もちつもたれつの館のまき」
広大な館に一人ぼっちで住む大金持ちの社長さんは、七つの寝室を曜日ごとに使い分けていました。ところが、あるときから6人の風来坊がこっそり夜中にしのびこみ、ひとり一部屋ずつ使っていない寝室で眠るようになりました。毎日、社長さんが寝室を移動するたびに彼らも部屋を移動していくのです。席替えみたいに。
しかしある夜、自分の将来に不安を抱いた社長さんは自宅に奉ってある特大のまねきねこに手をあわせて将来の自分の姿を見せてくれるように願います。そして、明日眠る予定の寝室をのぞくと、ベッドから安らかな寝息。次々に部屋のドアを開けるたびに、寝息が聞こえます。
社長さんは、あれは、この先の一週間の自分の姿だ、自分は毎夜ぐっすり眠れるってことだと安心して、すっかり元気になります。

毎日自分の家の寝室が満室なのに、まったく気がつかない社長さん、そして、風来坊は自分たちの寝姿から社長さんに元気を与えている。お互いに、自分が相手に貢献していることなど気がつかない、こんなおかしな関係も「もちつもたれつ」というのですね。 このそこはかとないおかしさ。

最後のお話はちょっといい感じです。

このほのぼのとした感じ、最後を締めるお話にふさわしいかもしれませんが、実は、ちょっと不満が。前の三話に比べて、少々パンチ不足のように思いました。このお話だけ取り出して見れば結構いいんですよ、オチも最後のお話らしくて。前の三話に比べて、少しだけ物足りない。やさしくて、きれいすぎるような。(娘はこれが一番好きっていうんですけど)

挿絵もいいです。下町のちょっと暗くて暖かい感じがただよっていました。