『山賊のむすめローニャ』  アストリッド・リンドグレーン

マッティス山賊の根城マッティス城に雷が落ちて、城が真っ二つに割れた日に、マッティスの娘ローニャは生まれました。
この割れた城の半分にマッティス山賊が住み、あと半分にライバルのボルカ山賊が引っ越してきたときから両者の争いは激しさを増します。
マッティスの娘ローニャとボルカの息子ビルクは森で出会い、夏をともに過ごしながら、兄弟のちぎりを結びます。
互いに相手を自分の半身と慕いながら、親たちのいがみ合いに心痛める子どもたち。さながら、ロミオとジュリエットのようです。
でも、このロミオとジュリエットは、さっさと家族を捨てて森に引越し、二人で暮らし始めるのです。

(たぶん)中世の北欧の森です。
その描写は静謐で、詩情があり、透明な感じがします。
深い森のしんとしたなかに住むのは狐やクマ、野生馬の群れ。それから、精霊や小人たちが不思議なリアリティで、神話世界を彷彿とさせます。
そして、こうした舞台のなかで、描かれる大人と子どもは、冷静で温かい目で描写され、その心情はきめ細かく綴られています。

森の掟、山賊の掟。これらは時にコミカルでユーモラスに描かれるのですが、大人と対等なものとして子どもを観ようとする腹の太さ。それは、おおらかで深い愛情、しかし決して甘やかさない(甘えない)厳しさの顕れでもあるのです。

深い森の懐に抱かれて、おおらかに悩み苦しみ、喜び、愛し、互いに高めあいながら成長していくローニャとビルク。そして、いつのまにか巻き込まれていく大人たちに、微笑んでしまいます。
ものすごく頑固で意固地な大人たちですが、子どもの思いを拙いなりに、真剣に取り合おうとする柔軟さに、同じ親として、見習うところがあるように思いました。さわやかな読後感でした。

ロッタちゃんの挿絵を描いたイロン・ヴィークランドが、すてきな挿絵を添えています。マッティスとうさんの豪放で人情のある人柄があふれた絵姿が好きです。