『 嘘つきアーニャの真っ赤な真実 』 米原万里

小学高学年時代の4年間(9歳から14歳)を著者米原万里さんはチェコプラハソビエト学校で過ごします。
この学校には、さまざまなバックグランを持つ50カ国以上もの子どもたちが集まっていました。
この学校時代の三人の友人たち(リッツァ、アーニャ、ヤスミンカ)のこと、その後30年を経てのそれぞれとの再会のことが三つの章に分けて語られた本でした。
読みやすく、すんなりと入れる文章でありながら、その奥にひそむ重さにやがて気がついていきます。

30年の日々。東欧諸国では共産主義が崩壊し、地域紛争に揺さぶられます。
亡命ギリシア人の娘。ルーマニアチャウシェスク政権幹部の娘。ユーゴスラビアムスリムの娘。彼女たちの平坦ではありえない30年(そして、まだ途上)、激動のなか、否応なしに翻弄され続けた30年に比べて、
この島国の単一民族のあいだで、あたりまえのように平和を享受していた自分の暮らしのほうが、嘘のように感じられるのです。
何という平坦な道をわたしは歩いてきたんだろう!

音信不通の彼女たちを捜し求める米原さんの旅は、ドラマチックで、まるで、ミステリのよう。だからこそ、その再会は感動的です。

物語を越えて、
30年ぶりの友人の電話に
「…それ以降と翌日の土曜日曜は、すべてをマリに捧げる。でも明日は仕事が手につかないわ…」
と答えてくれる友人を持った作者だからこそ書きえた話であり、真実であった、と思ったのでした。