『ビッビ・ボッケンのふしぎ図書館』  ゴルデル/ハーゲルップ 

この本は、1993年、ノルウェーの「図書年」にちなんで、子どもたちにもっと本に親しんでもらおうという企画の一環として、「本の歴史、読書の楽しみ、図書館の役割、出版文化についての話を盛り込んだ読み物」として書かれました。
作者として選ばれたのは、「ソフィーの世界」のヨースタイン・ゴルデルと、ノルウェーの売れっ子ユーモア作家クラウス・ハーゲルップでした。そして、この本はノルウェー全国の小学6年生全員に、無償で配られたというのです。(訳者あとがき参照)

まず、ノルウェーという国の、文化に対する意識の豊かさを思いました。
小学生に無料配布する読み物の作家として、国内の超一流の作家を抜擢、ミステリーとして完成度の高い物語を用意するんですもの。(半端じゃないです、日本語訳ハードカバーで300ページあまりの本です)

お話は、オスロとフィヤールランという離れた街に住む11歳のニルスと12歳のべーリットが、レターブック(交換日記)を交わしながら、自分たちが巻き込まれた「本」「図書館」をめぐる謎を解いていく、という筋立て。
最初から最後まで、このふたりの往復書顕で書かれているのですが、
べーリットの手紙をゴルデルが、ニルスの手紙をハーゲルップが担当するという凝った作りです。

「まだ書かれていない本」が納められているというふしぎ図書館がノルウェーのどこかにあるという。
そして、ふたりの子どものまわりに現れる、ふたりのことをよく知っている不気味な人物たち・・・
ミステリーとして、そこそこおもしろかったと思います。(つまらなくはなかった)
そして、これを読むと、確かに図書館の役割・歴史、出版文化のことがおいおいわかってくるようになっているのです。
しかし。
こんなに長々と回り道が必要なのでしょうか。
物語として、まあまあおもしろい、と言っても、「教育目的」というのが見え見えで、ふたりの手紙のなかに、無理やり、うんちくをからませているような部分がちらほら。 また、子どもの手紙なのに、やたら老成した表現が出てきて、11~2歳の子どもがこんなこと言うかな、と思ってしまう。
たとえば、リンドグレーンの作品に対してニルスが
>「ああいう本は子ども向けだっていうけれど、おとなになってから読んでもけっこうおもしろいと思うよ。」
これを言ったのが11歳の少年だと思うと、へそまがりのわたしは不自然さを感じて、妙に居心地が悪いんです。
ミステリーとしては、謎解きを、ビッビに一気にしゃべらせるのは、あまりにも芸がないなあ、と思いました。

心に残った場面は、
書誌学者であるビッビ・ボッケンは、無名の子どもが書いた詩(ふつうの子どもが、その気にさえなれば、ふつうに書けるであろう詩)をかけがえなく思い、自分は大人である以上、決して書けないのだ、と感じているところ。
わが身に置き換えて、せつない場面でした。