『風のまにまに号の旅 (あなぐまビルのぼうけん)』  ‘BB’

――あなたには、たいへんな幸運がおとずれる。
  それに、すごいぼうけんもある……。
うたいねずみの、この予言はほんとうでした。
あなぐまビルは、はたねずみのマティから‘風のまにまに号’をプレゼントされて、ぼうけんの旅に出発します。   (カバー裏の解説より)

あなぐまビルの冒険が始まりました。

登場人物(動物)たちがとても魅力的です。
お人よしでおっとりしたあなぐまビルと、気はいいけどちょっとだらしないはりねずみのイガー。
占いもするうたいねずみベガー、親切で気前のいいはたねずみマティ。
悪役たち、特に不気味な黒猫ナポレオンがおもしろいです。

さて、風のまにまに号は、買い手がだれもつかない古い古い貨物船でした。
しかし、なんて素敵な名前でしょう。ビルはマティにこの船をプレゼントされて、ペンキを塗り替え、徹底的に手入れをし、だれもが目を見張るような美しい船に仕上げていきます。
この過程が好きです。わたしもビルと一緒に船を美しくする仕事をしたいです。
そして、こんな船に乗り込んで、旅に出ていけたら素晴らしいのに。

自分の船を持ち、広い世界へ向けて自分の旅をする。
そこには、自由闊達な明るい夢がいっぱいです。
しかし、同時に、大きな思い責任を負うことにもなるのです。
また、どんな旅にも、必ず待ち受ける危機が、ナポレオンやビッグといったねこたちの姿を借りて現れます。
絶望的な状況のなかで、どれだけ冷静でいられるか。どのような判断ができるのか。そして、機を計ることができるのか。最後まであきらめずにいられるか。
旅が 素敵な冒険になるか、無謀なしくじりに終わるか、の分かれ道。
危機を乗り越えて見えるものは、自分の前に(今までよりもずっと)広く明るく広がる世界です。
これは、人生の旅に出ようとする子どもたちへの作者からのはなむけのようです。

いきいきとした挿絵を描いたD・J・ワトキンス=ピッチフォードは、作者のもうひとつのペンネームだそうです。