『 ウィロビー・チェースのおおかみ』  ジョーン・エイケン

19世紀のおわりごろ、善良な王ジェームズ三世治世下のイギリス。
当時、ドーバーからカレーへの海底トンネルが開通したばかりで、このトンネルを通って数知れない狼たちが、イギリスへ移ってきていた・・・

一寸待って。ユーロトンネルが開通したのっていつ?ジェームズ三世ってだれ?
…というわけで、エイケンは現実の英国の歴史に架空の歴史を上手にすべりこませたのだそうです。
その英国のヨークシャーの田舎にある、ウィロビー・チェースという広大な屋敷が物語の舞台です。
体の弱い妻の健康をとりもどすため、一年間外国へ旅行に出る領主夫妻。
残された二人の少女(一人娘のボニーとその従姉妹のシルビア)を養育し館を管理するために雇われた家庭教師スライカープ先生は、領主夫妻が出発するやいなや本性を現します。
彼女は館とその財産をのっとり、召使たちに暇を出し、少女たちを苛め抜きます。 挙句、二人を寄宿学校へ入れてしまうのですが、この学校が、学校とは名ばかり。孤児を集めて、子どもたちを朝から晩までこき使い、ろくな食事も与えない、告げ口が奨励される怖い世界でした。

以前読んだ時は、このあまりの暗さに、読みかけたものを途中挫折してしまいました。 しかし、今度、改めて読み直してみれば、暗さをほとんど感じないのです。
ボニーの明るく元気なこと、シルビアの控えめな優しさ、そして、ふたりの反骨精神、まっすぐさのせいでしょうか。
ふたりに味方する多くの大人たちの存在もありましたし。
また、屋敷の中の秘密通路やら、ジプシー少年サイモンの洞窟、ロンドンへの子どもだけの旅など、冒険がいっぱいです。
たくさんの狼が出てくるのですが、人間の「狼」も意図しているのかなと思いました。

二人の少女が、友だちのジプシー少年サイモンの助けを借りて、学校(孤児院)を逃げだす所から、物語は急展開。ラストのハッピーエンドに向かって一気に読んでしまいました。
冬のさなかに始まって春の真ん中で終わる。
気持ちの良いラストシーンは、最高です。とてもおもしろかったです。