『孔雀のパイ 』 ウォルター・デ・ラ・メア

こどものための(でも少し大きい子のための)詩集。挿絵:エドワード・アーディゾーニ
「孔雀のパイ」というタイトルは、詩『気のふれた王子の歌』の一節からとられたものです。
 “だれがいった、「孔雀のパイ」と?
  年とった王様がスズメにいった。”
装丁が美しいです。クリーム色の上質の紙。印刷された文字と絵は茶色。今回、図書館で借りたんですけど、この本欲しくなってしまいました。

月の光や日の光、様々な影、丘や川、木々や草花・・・
妖精やエルフ、魔女や大男・・・
あるときは皮肉とユーモア、またあるときは見えないものへのおそれとあこがれ。 デ・ラ・メアの詩は、現実の世界を歌いながらも、その世界の中にたくさんの扉が開かれ、私達を不思議な世界へと誘うのです。
現実なのか夢なのか、私たちの前に差し出される風景の中でまよってしまうようです。 そして、添えられたアーディゾーニの挿絵。
躍動する子ども。
思わず絵の奥を覗き込みたくなるような目に見えない気配を感じる空間のある風景。 詩と一体になりこそすれ、決して邪魔をしない独特の絵の世界。
…この人の絵はファージョンと相性がいい、と感じたことがあります。それもあるのかもしれませんが、デ・ラ・メアの描く世界は、ある種、ファージョンと似通った、幻想的で美しい雰囲気があるのです。

すてきなフレーズがいっぱいあるんです。
 “どのからだにもズボンなどはかず、ゆるいもきついも何もなし”   『リオの船』より
 “急な階段を五階上がって、天国から一階おりた部屋で・・・”   『きのどくな、なな嬢』
 “おいぼれ犬のローバーは、こけむす小屋で骨かじり、ネズミとみればほえかかる”   『夏の宵』
 “ほしぼしが群れをなし、ゆったりとくつろいでいる”  『だれも知らない』

一つだけ、詩を選んで書き写したいと思いましたが、どれを選んだらいいかと迷ってしまいました。
訳がとてもすばらしくて・・・(そう、思い出しました。訳者まさきるりこさんって、マリー・ホール・エッツの絵本「もりのなか」を訳されたかたでした。こちらも文が詩的で美しかった)


    夢の歌

 日の光、月の光、夕べの光、星の光――
 一日は暮れてゆき、フクロウが呼んでいる。
 つめたい夜露がおりてくる、
 楢とサンザシの森の上に。

 提灯の光、ロウソクの光、たいまつの光、暗闇、
 一日が暮れて暗闇が訪れる。
 遠くの荒野で、
 ライオンが吠え、
 怒りの声をあげる。

 妖精のあかり、うすくらがり、火口のあかり、チラチラひかる燐光、
 海が灰色の光を映す。
 小さな顔がほほえんでいる。
 うつつの夢の中で、
 遠くの不思議な国で。