『おやすみなさいトムさん 』 ミシェル・マゴリアン

第2次世界大戦下のイギリス。片田舎のリトル・ウィアウォルド村。8歳の疎開児童ウィリアムと、彼を預かることになったトムさんの物語。
実は、このふたりは、ともに心に深い傷を負っている。共に暮らすことにより、癒されていく物語。と簡単に言えばそういうことなのですが・・

何度も、苦しみながら、ゆっくりと乗り越え、成長していくウィル。
何も聞かず、ただ支え、受け止めるトムさんの静かで大きな愛情。
後半、ウィルを奪回する場面のなんとはらはらしたこと。そして、親友ザック。ああザック!
村の風景の穏やかで優しいこと。
村の人たち、そして、ウィルの友だちがまた、温かく優しい。それぞれに悩みを持ち、夢を持ちながら、互いに支えあっていく。
子どもの本というのに、かなり重たいテーマで、ショッキングな描写(ウィルの母親には怒りよりむしろ哀れさを感じる。そして親友との突然の別れには、間違いだったということになってほしいと心から思った)があるのですが、読後に、ただただ静かな満たされた感動だけを残してくれたのは、
こうした風景の美しさ・のどかさや、温かい田舎の人々の細やかな描写のせいだろうと思う。

 >「きみ、死んでもいいくらい幸せだってこと、あると思う?
   ぼく、いま、それこそ、幸福で破裂しそうな気がしているんだ。
   そしてね、いま破裂したら、
   ぼくの体や心がこの野原いっぱいに散らかるだろうって」