『ユウキ』  伊藤 遊

「鬼の橋」が好きだったので、この人の現代のものはどんな感じ?と思って読んでみましたが、やっぱりやっぱりすばらしかった。
人の気持ちの微妙な動きを書くことが、とても上手なかただなあ、と思います。

転校生の出入りが多い小学校に通うケイタ、6年生。
ケイタは小さいときから、次々にユウキという名の三人の少年と親友になったが、どのユウキもケイタを残して転校していく。
6年生になった日、ふたりの転校生がやってくる。ひとりは、名を―ケイタの予想どおり―ユウキといった。しかし、女の子だった。優希。

転校していくもの、おくるもの、むかえるもの・・・
それぞれの微妙な気持ち、つらさ。
自分ひとりで抱え込んでしまえば、たぶん、それだけで精一杯で、相手や、まわりの気持ちを汲み取る余裕なんてなくなってしまうのだね。
ケイタ。そして、クラスのみんな。
優希と出会うことで、少しずつ、いろいろなものが見えてくる。

三人の去っていったユウキがケイタ(や、みんな)に残していったもの
をみつけながら、氷がとけるように、取り残されたような空虚感が埋められ、満たされていくさまには、心が温かくなっていく。

そして、最後に思い出した。
そうか、転校生ってふたりいたんだ。
ユウキの陰で見えなかった彼。存在感の薄い彼が自分らしくなれなかった最初の一歩。
ほとんど書かれないかったその期間のさびしさ、つらさを思った。
やり直しができるっていいね。やり直す側も受け止める側も。

優希―いい名前だね。やさしさと希望を大切に育てられる子になれ、と名づけられたのかな。そういう子でした。
ヨシカワ、カズヤ、みんなすてきに優しい6年生だった。
さわやかな読後感でした。
わが子も、こんなクラスで過ごせたらいいなあ。