『農場にくらして   アリソン・アトリー』

学校や教会がある村からは、深い森によって遠く隔てられた農場の一人娘スーザン(作者アトリーの少女時代といわれる)の四季。

勤労と協力、いたわりと愛情。農場の暮らしを支える信仰と迷信。
「トム(父親、農場主)はいつも良いこと悪いことに備えて暮らしてきました。与えられたものを受け取り、今日は失っても、また明日手に入れ、快活さを失わずにすべてを受け入れました。」

冬は夜の森のなかを月明かりをたよりに、あるいは、カンテラをかざしながら帰る、遠い学校へ通うこと、農場の仕事や家の中の家事を手伝い、草原を駆け回ったり、動物たちと話し、4冊だけの蔵書を繰り返し読むスーザンの暮らしは、輝き満ちている。
時には、大人たちの信心深い言葉の切れ端や農村の迷信におびえたりしながら、さまざまなもの見えぬ友と心通わすスーザン。

「・・・動物たちの話は聞こえるわけではありません。目で話すのです。ところが、物や部屋や、木や畑や牧草地は、スーザンがとてもとても静かにして、耳をすましていると、安心してはなします。スーザンはこういう友だちがたくさんいて幸せでした。」
「スーザンはベッドに横になって、(星の)数をかぞえました。・・・毎日かぞえつづけました。何百も、また何百も。けれども、数にはおわりがありませんでした。・・・こうしてスーザンは、はじめて無限を垣間見たのでした」
「スーザンは、また不信心になっていました。・・・神を畏れぬ異教徒のような喜びと、地球に対する愛に満たされました」

まだまだ、ほーっとため息をつきたくなるくらい好きなフレーズがたくさんあるのですが、実はこの本を読み終えるまでにすごく時間が掛かってしまいました。
読み始めると、わたしは決まってZZzzz…
散文詩のようなこの本に、ストーリーはないのです。ほんとうに、農場の大人と子どもの喜びやおそれ、悲しみなどをくるみこんだ生活を、写実的に写し取った本でした。
そして、スーザンが想像力豊かにその生活や思いを語るとき、グレイラビットの姿がちらちらと見えたり、「あらっ、じゃあ『時の旅人』の核の部分は、すでに作者十歳のときにできていたってことかしら」と思わせるような描写があったりして、楽しかったです。
そして、なにしろ、上にあげたような引用文の世界なので、そろそろ読み終わりそう、というところまで来た時は、さびしかったです。