『宇宙のみなしご 』 森絵都

   あなたと手をつなぐ人はきっといる。
   真夜中の屋根のぼりは陽子・リン姉弟のとっておきの秘密のあそびだった。
   やがて思いがけない仲間がくわわって…
         ――(アマゾン レビューより)――

真夜中、寝ていると、
うちの屋根がことことんと、かすかな音を立てて鳴ることがある。何かが歩いているように。
「ああ、また野良猫だ」と、うとうとしながら思うのだけど、もしかしたら野良猫じゃないかもしれない。
いたずらっぽい気の強そうな目をした少女と、ミルクティー色の瞳の笑顔の素敵な少年と、若草物語のベスによく似た思慮深そうな目をした少女と、ちょっと神経質そうだけどひたむきな目をした少年が、うちの屋根の上で何かしているのではないか。

  「授業終了のチャイムが鳴って、
   笑い声と足音がどたどた、
   そして友だちがむかえにくる―――」

こんなフレーズの中に、嘗て中学生だったわたしたちの姿もぼんやり見えたりして。膝を覆う重たい紺のプリーツスカートをはためかせて走っていた私たち。つらいことや腹のたつ事もいっぱいあったはずなのに、友達といっしょに笑っていた場面ばかりが今日はよみがえります。
手をつなぎあった思い出は、長い時を経たあとでも、ちゃんと元気をとどけてくれます。
暖かな思い出の数々にぽっと灯がともったような気がして、今ちょっといい気分です・・・ちょっと せんちめんたる。

きらきら輝け、宇宙のみなしご。

夜の空から下りてくるひんやりと澄んだ空気を吸うような心地よさ。
そこでつながれた手のぬくもりの心地よさ。

それほど深い内容があるわけではないとも思うのですが…この本、なぜか、いいんですよね。なんだろう。この雰囲気。
子どもたちも、わたしたちも、厳しい、痛々しい世界の中で生きているから、だから、なおさら信じたいもの、守りたいものがある。つなぎたい手がある。
この本は、作者から差し出された「手」でした。