『博士の愛した数式』小川洋子

この作者の作品は、これが初めてなのですが、当分このかたの本は読みたくないくらいです。この本の感動そのまま、そーっとそーっとしておきたい、と思ってしまいました。

昔、「先生、数学ってロマンチックですね」と教師に告げる中学生の女の子が出てくる本を読んだことがあります。数学から感じるロマンチックってどんなものなのだろう、と思い、心に残っていました。
博士は、この本の中で数学のロマンと神秘を語ってくれました。まるで宇宙の星々を語るように。
数学の話はわたしにはほとんどわからないのですが、その美しさ、完璧な美しさを求め、近付いていこうとする、ふるえるように純粋な心は、胸にひびきました。
崇高なまでに純粋な魂。

博士と私と息子のルート、そして自分の気持ちを押し込めて黙って長い年月を見守っていく未亡人。

この人たちのバランスもまた、静かで切ないくらいに美しい数式のようでした。
読み終えたとき、静かに静かにみたされてくるこの感情に、ずっと浸っていたい、と思いました。

「正解を得た時に感じるのは、喜びや解放ではなく、静けさなのだった。あるべきものがあるべき場所に納まり、削ったりする余地などなく、昔からずっと変わらずそうであったかのような、そしてこれからも永遠にそうであり続ける確信に満ちた状態。博士はそれを愛していた。」


*** 《 追 記 》 *********

いま、ちらっと「星の王子さま」を思い出しました。
星の王子さま」を初めて読んだ時の感じにすごく似ているんです。
美しくて美しくて悲しくなってしまう。というのはこういうことか…と思ったことを思い出しました。