『家守綺譚』 梨木香歩

「坊ちゃん」がふわふわととらえどころが無くなって帰って来たような文体。 ややロマンチックで、やや人を食ったような。

煙か霧かにまかれながら歩いているような気がしてくる、山野草をお題にした短編集。 何かに化かされているのかな、取り付かれているのかな、と言う感じ。
でも心地いいから、このまま化かされていよう。何を見ても何を聞いても「ああ、そういう土地柄だから」と言いながら。

この家はいいなあ。
「呼吸する家」って、どこかの建築会社のキャッチコピーだったのかなあ。
この家は庭と共にあって、土地とともにあって、ちゃんと呼吸をしているように感じる。
家が生きているなあ。
わたしもこの家の縁側に座って、庭と話をしたい。
懸想されるなら(されるのか、するのか?)、タイサンボクがいいなあ。
がっしりとして、物静かで芳しい男子のようだろうなあ。
そしたらわたしは漢詩を読んであげよう。(もちろんルビがいっぱいついた対訳付きのね)

ホトトギスの話が好きだった。松茸の籠にそえられたホトトギス一茎。

最後の章で、葡萄を前にして、征四郎の思いがけずはっきりした物言いに驚いた。
何でもそうかそうかと受け入れてしまいそうな男が何故ここで?
先を読み、ああ、そうか、そういうことか。と納得する。
そして、この人に、こういうぴんとしたところが隠されていたから、
寄って来る者も、それ以上深く近づけなかったということだろうか。

それで、わたしも、
風雅でないこの町の中で、風雅の片鱗を拾いながら、
差し出された『葡萄』には手を出さず、
くらしていこうと思います。