『 川の名前 』 川端裕人

字が小さくて漢字にルビがふってない。
図書館の児童書コーナーには置いてない。
それでも、これはやはり 子どもの本だと、思った。

日本の夏。日本の川。まちがいなく日本の風景がある。
どの街にもあるだろう風景の中の少年たち。
そして少年たちのある夏休みの秘密、冒険。
ひと夏を経て彼らが手に入れたものはものすごく大きい。
このあとの生き方を変えるほどに。

心の高貴さや醜さ、立ち向かう姿勢とひるむ心、感じる心…
こういうものの入れ物としての人間は大人も子どももない、子どもは幼稚ではない、大人と同じように感じ、考え、判断する力を持っている。

大人と子どもの違いは…経験に裏打ちされた「分別」かな?
冒険心を邪魔する。

純粋に自分の信念をつらぬこうとする人はときどき「変な人」に見える。
純粋な信念。なのか、単なるセンチメンタリズムなのか、よくわからないときがある。
当たり前ではない状況に立ったとき、気がつくこともある。
「よこしまな者ははねのければよろしい。だが、正しい者には要注意だ。正しいことが、常によいことではないとおぬしらは肝に銘じるべきである」
喇叭爺のことばが胸に残る。

遠くを眺め、遠くに歩いて行くためには自分の立っている場所がどんなところなのか、気づかなくては。
と、思った。でも、冒険の果てに
遠くへ行くことこの場にとどまることが同じ冒険であることに気づいたりする。
河童と呼ばれる少年。
マイケル・ビダードとバーバラ・クーニーが描く「エミリー」と言う絵本を思い出した。詩人エミリー・ディキンスンの充実した豊かな内面。河童の中にエミリーと同じ世界が見えたような気がした。

終章で、ある少年が挨拶する。
「ぼく、大場寛です。荒川・中川・水元川の大場です」
胸が熱くなってしまったよ…

本のカバーの絵、きれいでした。緑っぽい町を高いところから俯瞰した絵。町の中を流れる川が、白く光って。

ウチの近くの川には十年ほど前までほたるがたくさんいた。
今はコンクリートで固められて、ホタルは一匹もいなくなった。近づくとドブのにおいがする。

川。わたしの川の名…