『ホビットの冒険 (上下)』  J・R・R・トールキン

この本の原著の題名は「そのホビット―ゆきて帰りし物語―」という…と、あとがきに書いてありました。

  ゆきて帰りし物語。
子供が小さい時、よく、小さな手提げの中に、ハンカチやお気に入りのおもちゃを詰め込んで「いってきまーす」と言いながら出かけていった。そして、隣の部屋や庭先をぶつぶつと何か独り言を言いながら歩き回り、「おかあさん、ただいまあ」と帰って来た。(空想の世界で)どんな冒険をしてきたのかな、いつもうれしそうに、帰って来た。 子供たちのゆきて帰りし物語の始まり。
どんなに暗い森を通っても、気味悪いゴブリンや、竜と戦っても、最後にはなつかしく暖かい我が家へちゃんと帰れる。
ホビットの冒険」は、子供の遊びの延長線上にあるような気がしました。そして、これが、とってもうれしいことでした。

「ゴブリンから逃げてオオカミにつかまる」
ビルボの言葉だけれど、お話はずうっとそんな感じで、ハラハラドキドキ、まさに「冒険」の世界でした。
竜が死んだあとは、もう一気読みでした。おもしろかったです。

主人公ビルボはいつだって自分の家に帰りたいのだし、
ドワーフたちは欲が深くて、身勝手。
しかも、みんな齢百歳を過ぎたお年寄り。
一体どこに魅力的な登場人物がいるというのですか?
と、思いながら読み始めたお話でしたが、
「あなたの心のなかには、あなたが知らないでいる美しさがあるのじゃ、やさしい西の国のけなげな子よ。しかるべき勇気としかるべき知恵、それがほどよくまじっておる。」
という
最後のトーリンのことばをきくまでもなく、すぐにビルボが好きになる。最後は、ビルボばかりでなく、共に冒険をして、友情に結ばれたドワーフたちも名残惜しく、本を閉じる。

詩を書いたり、エルフをたずねたりしながら暮らし、故郷の人々にはその冒険物語を信じられず「気の毒な…」と言われた、その後のビルボも好きです。