『かるいお姫さま』  ジョージ・マクドナルド

「かるいお姫さま」と「昼の少年と夜の少女」の二つのお話が収録されています。

☆「かるいお姫さま」

魔女の呪いで重さをなくしてしまったお姫さまのお話。

…しかし、重さがないということは、体の重さだけではなく、心の重さもなくなってしまうのでした。
お姫さまだけならまだしも、王様もお妃様も、かなりお軽いご様子。
(この親にしてこの子あり、これは呪いではなく遺伝ではなかろうか、と思います)

それにしても、ふわんと浮かんでしまうお姫さまの様子が大変楽しそうで、わたしも、その重さのない暮らしをちょっと味わってみたくなってしまいました。(日ごと重たくなるこのからだ、どっこいしょ♪)
水の中でだけ重さを取り戻すお姫さま。夜ごと、王子さまと湖で遊ぶ描写、とってもすてきで好きです。

何がお姫さまの重さを取り戻すのか。
御伽話のセオリーどおり、王子さまの愛が。
しかし、王子さまは呪いを解こうとは考えません。王子さまは、そのままのお姫さまを愛しました。
重さのないからだ、重さのないおつむ、重さのない心で、王子さまの愛の重さもわからずコロコロと笑い転げるお姫さまを。
王子さまがお姫さまを救うために自分の身を捨てた時に、何かが変わりました。お姫さまが「重さ」に気がついた時…

昔話のような、可愛らしいお話でした。が、風刺が、あちこちに、すまして織り込まれていて、ところどころで、どきっとして、にやっとして。
(たとえば、中国人の哲学者の話、おもしろかったです。
重さがないのは問題だが、重い問題をひねくりまわして余計に重くしてしまうのは、いかがなものでしょう。)
おかげさまで、最後にはすっかり疑り深くなってしまいました。これはこのまま「めでたしめでたし」って喜んでいいのかな、と。いいんですよね?


☆「昼の少年と夜の少女」

魔女に育てられた二人の子ども。
男の子フォトジェン(光の子)は、闇を避けて太陽の光だけを浴びて育ちました。
女の子ニュクテリス(夜の子)は、太陽の光の届かない墓所で、ランプの明かりだけで育ちました。
やがて、魔女の城の外で、ふたりが出会い・・・

幻想的な話でした。
ニュクテリスが初めて外に出た時の、夜の風景が美しくて素晴らしかったです。夜のかぐわしい匂いがしてきそうな詩的な描写。
ニュクテリスが、月を見て、親しく「ランプのお母さん」と呼んだのに対して、
光の子フォトジェンが、初めて見た夜の世界に恐怖を感じて、月が「血の気のない、気味の悪い、ぞっとするようなもの」に見えたこと。
視点が変わるたび、わたしも、この世のさまざまなものが慕わしく思えたり、怖ろしく思えたりするのです。
光の子と夜の子が寄り添い合って、互いの未知の恐怖を取り除きながら、広い世界に足をふみだしていく、不思議な美しさが満ちた世界でした。うっとりしてしまいます。 ・・・しかし、なぜ、魔女がこんなことをしたのか、目的はなんだったのか、最後までわかりませんでした。