『夜明けの人びと』  ヘンリー・トリース 

この物語の主人公「ゆうぐれ」(一名「まがり足」)が、サトクリフの「太陽の戦士」ドレムや、「ケルトの白馬」のルブリンを思い出させる。

不思議な物語。詩のようで、寓話のようで・・・
夜明けは、、人類の歴史の原初の意味。
おそらくは、何百年にも及ぶ月日をひとりの少年の目を通して、短縮してみせてくれたのではないか、という気がするのですが。

さまざまな人々が出てきた。
残酷な種族、平和を愛する種族、滅び行く種族・・・
戦ってばかりいるイヌ族やキツネ族よりも、一見平和そうな川族のほうが恐かったなあ。狡猾な感じで。
不思議に美しい調和を感じさせてくれたのが赤毛族だった。彼らが絵を描く人々だったことも調和と平和を感じさせる。あまりにも平和で、やさしくて、ああ、これは滅びるのだなあ。

主人公ゆうぐれは、絵を描く腕をもち、さまさまな種族に出会い別れながら旅をしていく。
彼は平和を愛し、理解しあいたいと望む。
彼の絵を描く才能は、魔法として恐れられたり、敬われたり・・・
理解しあいたいと言うことも、絵を描くということも、異端だった。そのために、つねに別れを経験しないではいられない。

そもそも、絵を描く、とはどういう意味なのか。これ、大きな夢なのじゃないかな。理解しあいたい、、ということも同様に大きな夢(希望、憧れ、願い)。
食うこと、生きながらえることに必死のなかで、夢を語ることができる、というのは偉大なことなんじゃないのかな。

最後に到達したあの「さく」のない村はどこなのだろうか。
ゆうぐれ(まがり足)が足を引きずらずに歩けるようになるということは、どういうことだろう。乳飲み子が乳をほしがって泣かずにすむ、ってどういうことだろう。
これは、現実の世界にある「どこか」ではないような気がするのだが、…自分の感覚に自信がありません。
  >これが、はじめはまったく黒かった物語におとずれた黄金色の終わりだった。

…逆に考えれば、黄金色の終わりに到達するためにはその途上に「黒い物語」が横たわっているのかもしれない。

ちいさなしま

ちいさな島

ちいさな島


以前、本プロで、アメリカ在住のようさんが紹介されていたマーガレット・ワイズ・ブラウンの絵本「The Little Island」がとても気になっていました。
公立図書館の蔵書検索で、マーガレット・ワイズ・ブラウンで検索してみましたが、ヒットするものはありませんでした。
アマゾンの洋書で検索して、表紙画像を見ながら、日本でも翻訳されているのだろうか、翻訳されていたらどんなタイトルで?と思いをはせました。

日本では出ていないのかもしれないと諦めていたのですが、
先日、偶然に図書館で、みつけました。
アマゾンで見た表紙の絵です!
急いで手にとりました。
タイトルは「ちいさな島」、訳は谷川俊太郎さんです。
だけど、作者名がゴールデン・マクドナルドになっているのです。これはマーガレット・ワイズ・ブラウンの筆名のひとつだそうですが、これではみつけられないはずです。
絵はレナード・ワイスガード。黄金のコンビ。

*****

マーガレット・ワイズ・ブラウンの美しい詩の世界を谷川さんが流れるような日本語に替えてくださいました。

  >ちいさな島には ちいさな森があった。
   7ほんのおおきな木と
   17のちいさなしげみと
   1つのおおきないわが そのなかにあった。
   とりたちは その森にあつまり、
   チョウとガが 海の上をとんで
   森にやってくる。

この絵本のなかから、美しい言葉にのってワイスガードの絵が、いきいきと、潮の香、風の音、生き物達の息遣いや森の匂いまでも届けてくれるのです。
行った事のないこの島の浜辺に立ち、風になぶられ、小さな森の中、鳥の声に耳を傾けているような気がしました。
深呼吸してしまう。なんと素晴らしい夏の日。きらめく命の島。きょうこの日に出会えて本当によかった。

やがて、島に、家族といっしょに小さな猫が一日だけのピクニックにやってきます。ここからが、いうなればこの絵本の第2章と言うことになると思います。
猫と島とが語り合います。
自分が島だということについて。
世界とつながっていることについて。
すーっと気持ちよく喉元を通っていく優しい言葉。優しい言葉ですが、深みのある言葉です。

…と書くと、説教臭い感じがするでしょうか。
とんでもない。
寓話として奥行きを覗くも、無邪気なこねこになって「ひみつをしったうれしさ」をひっそりと感じてもいい。
どこにも押し付けがましさはありません。
大体、作者はどういうつもりでこの絵本を世に送り出したのでしょうか。

この絵本の最後の言葉が心にのこります。

  >ちいさな島でいることは すばらしい。
   世界につながりながら 
   じぶんの世界をもち
   かがやくあおい海に かこまれて。

大きな群れの中にいると、安全だけれど、自分が見えなくなっていく。
おおきな群れの中で、自分を持つことはむずかしい。
人々に心を開き、人々を受け入れ、その助けに感謝しながら、それでも、変えてはいけない自分を持ち続けることができたらいい。それはとても難しい、と思うのですが。
もう一度、島を見ながら深呼吸する。

この絵本を読んだ次女が言いました。「小さいけど大きな島だな」――ほんとにそうだね。