『よくできた女(ひと)』 バーバラ・ピム

よくできた女 (文学シリーズ lettres) 作者:バーバラ・ピム みすず書房 Amazon 舞台は戦後まもなくのロンドン。主人公のミルドレッドは教会の教区活動に熱心な、三十代独身の女性である。「よくできた女(ひと)」とは、彼女の友人知人たちによって言われる…

『つきよのアイスホッケー』 ポール・ハーブリッジ(文)/マット・ジェームス(絵)

つきよのアイスホッケー (世界傑作絵本シリーズ) 作者:ポール・ハーブリッジ 株式会社 福音館書店 Amazon 12月、初雪が降る前というのに気温がマイナス20度になる町で、子どもたちは満月の晩を待っている。森の中のビーバー池に、アイスホッケーをやりにいく…

『蒼ざめた馬』 アガサ・クリスティー

蒼ざめた馬 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) 作者:アガサ・クリスティー 早川書房 Amazon ここに、九つの名前が記されたメモがある。霧の夜に殴り殺された神父が隠し持っていたメモだ。彼は、ある婦人の最期の告解を聞き取った後にこのメモを書き、そうして…

『こえてくる者たち:翔の四季 冬』 斉藤洋

こえてくる者たち 翔の四季 冬 作者:斉藤 洋,いとう あつき 講談社 Amazon 『かげろうのむこうで: 翔の四季 夏』『黒と白のあいだで: 翔の四季 秋』に続く、小学五年生の並木翔の冬は、三学期の初めに転校生、鞍森杏がやってきたところから始まる。杏と翔の…

『神様のいる街』 吉田篤弘

神様のいる街 作者:吉田 篤弘 夏葉社 Amazon 手のひらに乗りそうな、この本は、三つの小さな章(物語)が集まって一つの少し大きな物語ができている。 三つのうち、真ん中の物語『ホテル・トロール・メモ』は作者・吉田篤弘さんの知る人ぞ知るの処女作だそう…

『窓辺のこと』 石田千

窓辺のこと 作者:石田 千 港の人 Amazon 『共同通信』に連載したエッセイ『窓辺のこと』を中心に、2017年から2018年までの一年間の作品をまとめたものです。この年、著者は50歳の誕生日を迎え、父を亡くした。選ばれるお題は、身の回りの風物、美味しい食べ…

『ロサリオの鋏』 ホルヘ・フランコ

ロサリオの鋏 (Modern&Classic) 作者:ホルヘ・フランコ 河出書房新社 Amazon 「俺」アントニオが愛したロサリオは、友人エミリオの彼女だった。三人はよく一緒に過ごした。ロサリオが至近距離から銃弾を浴び、瀕死の状態で救急搬送されたとき、付き添ったの…

12月の読書

12月の読書メーター読んだ本の数:11読んだページ数:2923夏のサンタクロース: フィンランドのお話集 (岩波少年文庫 259)の感想フィンランド特有の風土の上で、動物、妖精たちと人びとが活躍する13の物語。森の小屋で、ひとりのおばあさんが糸を紡いでいる。…

『夏のサンタクロース』 アンニ・スヴァン

夏のサンタクロース: フィンランドのお話集 (岩波少年文庫 259) 作者:アンニ・スヴァン,ルドルフ・コイヴ 岩波書店 Amazon この童話集には13のお話が収められている。夏には緑豊かな森、野原、海が、冬には雪や氷に閉ざされて、すっかり姿が異なってしまうフ…

『をんごく』 北沢陶

をんごく 作者:北沢 陶 KADOKAWA Amazon 古瀬統一郎の妻倭子は、あまりに早くあっけなく亡くなった。だから、彼は、巫女に口寄せを依頼した。能力のある巫女だったが、この降霊はうまくいかなかった。巫女は、倭子の死に腑に落ちないものを感じる。その頃か…

『2ひきのかえる そのぼうきれ どうすんだ?』 クリス・ウォーメル

2ひきのカエル そのぼうきれ、どうすんだ? 作者:クリス・ウォーメル 徳間書店 Amazon 大きな池のまんなか、睡蓮の葉っぱの上で、二匹のカエルが会話している。一匹がもう一匹にきく。「なんで また、そんな ぼうきれ かかえてるのさ?」見れば、一匹のカエル…

「945年のクリスマス」 ペアテ・シロタ・ゴードン:平岡磨紀子

1945年のクリスマス 日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝 (朝日文庫) 作者:ベアテ・シロタ・ゴードン,平岡 磨紀子 朝日新聞出版 Amazon 日本国憲法に、「男女平等」を謳う第二十四条を書いたペアテ・シロタ・ゴードンの自伝である。 天才の誉れ高い…

『狼の幸せ』 パオロ・コニェッティ

狼の幸せ 作者:パオロ・コニェッティ 早川書房 Amazon 舞台は、アルプスのモンテ・ローザ山麓の小さな集落フォンターナ・フレッダ。狼と風の領分と、人の領分との境界のような場所だ。変化を好まないどころか敵視するほどの人びとが暮らす一方、やり直しの場…

『レベル3』 ジャック・フィニイ

レベル3 (異色作家短篇集) 作者:ジャック フィニイ 早川書房 Amazon 『ゲイルズバーグの春を愛す』に続いて、ジャック・フィニイの二冊目。タイムトラベルもの、現代(1957年)と過去とが何かの事情で混ざり合う話、幽霊と出会う話……などなど、11篇の不思議…

『ベアトリスの予言』 ケイト・ディカミロ

ベアトリスの予言 作者:ケイト・ディカミロ 評論社 Amazon ある朝、泥と血に汚れた少女が山羊に寄り添って眠っているのを、ひとりの修道士が発見する。彼女は、ベアトリスという自分の名前以外、何一つ覚えていなかった。そのころ、王宮では、この少女を執拗…

『歌わないキビタキ 山庭の自然誌』 梨木香歩

歌わないキビタキ 山庭の自然誌 作者:梨木香歩 毎日新聞出版 Amazon 「歌わないキビタキは別人(鳥)のようだ。繁殖期の頃の朗らかな彼ではなく、何か重い鬱屈を胸に抱えているような、近々、苦しく長い、命がけの旅に出なければならないという予感に囚われ…

『ねこもおでかけ』 朽木祥

ねこもおでかけ (わくわくライブラリー) 作者:朽木祥 講談社 Amazon 挿絵の猫が生き生きとして、ほんとにかわいい。仁王立ちして、寝転んで、じゃれついて、何かに頭を擦り付けて、絵なのにちゃんと生きてる、弾んでる。ふわふわの毛の奥の温かな弾力が、こ…

『失われたものたちの本』 ジョン・コナリー

失われたものたちの本 (創元推理文庫) 作者:ジョン・コナリー 東京創元社 Amazon ドイツの空爆にさらされる戦時下のイギリス。12歳のデイヴィッドは最愛の母を病気で喪ったが、いくらもしないうちに父は、新しい母に彼を引き合わせる。まもなくデイヴィッド…

『大司教に死来る』 ウィラ・ギャザー

大司教に死来る (須賀敦子の本棚 池澤夏樹=監修) 作者:ウィラ・キャザー 河出書房新社 Amazon 1848年、ニューメキシコに、二人の若い神父が赴任してくる。ラトゥール司教とヴァイヨン副司教だ。当時、この地方は、インディアンとメキシコ人の土地だった。150…

11月の読書

11月の読書メーター読んだ本の数:10読んだページ数:2798最後の語り部の感想たった一人で巨大なものに立ち向かう主人公の味方は、昔、聞かされた膨大な「物語」と、幸せな日々の記憶。彼女の思い出に何度も温められながら、何かがおかしいと考える人に、立…

『最後の語り部』 ドナ・バーバ・ヒグエラ

最後の語り部 作者:ドナ・バーバ・ヒグエラ 東京創元社 Amazon 軌道をずれて近づいてくるハレー彗星の衝突で、もうすぐ滅亡する地球を逃れるため、「選ばれた」人びとが別の星に移住することになった。移動にかかる380年という時間をポッドの中で眠り、睡眠…

『満潮に乗って』 アガサ・クリスティー

満潮に乗って (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) 作者:アガサ・クリスティー 早川書房 Amazon 百万長者のゴードン・クロードは、新妻とともにイギリスの邸宅に帰ってきた三日後に空襲によって死亡した。新妻ロザリーンは未亡人となり、ただ一人で莫大な遺産を…

『ゲイルズバーグの春を愛す』 ジャック・フィニイ

ゲイルズバーグの春を愛す (ハヤカワ文庫 FT 26) 作者:ジャック フィニイ 早川書房 Amazon 幽霊やインチキ臭いマジック、巡回サーカスや刑務所の独房、石畳やガス灯のある街かど、などなど、ノスタルジックなディテールが印象的な十編のファンタジー。初めて…

『ガザに地下鉄が走る日』 岡真理

ガザに地下鉄が走る日 作者:岡 真理 みすず書房 Amazon 2018年の本。 難民は、ノーマン(何者でもない者たち。人間が何者かであることによって付随する一切の諸権利を持たない者たち)だ。人権という言葉は、生まれがらの人間の権利を指すのではなく、その場…

『犬のかたちをしているもの』 高瀬準子

犬のかたちをしているもの 作者:高瀬 隼子 集英社 Amazon 薫は大病で卵巣の手術をしたため、子どもを産むことが困難な状態だ。同棲中の郁也は、身体の関係がなくなっても、薫のことを深く愛している。これからも離れることはないだろう。ところが、郁也の子…

『黒と白のあいだで:翔の四季 秋』 斉藤洋

黒と白のあいだで 翔の四季 秋 作者:斉藤 洋,いとう あつき 講談社 Amazon ジャーマンシェパードのトラウムと毎日散歩をしていた小学五年生の翔の夏休みの話が、前作『かげろうのむこうで: 翔の四季 夏』だった。そして、今は秋だ。校内では窃盗事件、町内で…

『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』 小野寺拓也、田野大輔

検証 ナチスは「良いこと」もしたのか? (岩波ブックレット 1080) 作者:小野寺 拓也,田野 大輔 岩波書店 Amazon ナチスは「良いこと」もしたのか? 定期的に繰り返される議論だそうだ。 ヒトラーは民主的に選ばれた、当時のドイツ国民は熱狂的にナチを支持し…

『やまの動物病院』 なかがわちひろ

やまの動物病院 作者:なかがわちひろ 徳間書店 Amazon まちの動物病院は、山のふもとの一軒家。まちの先生のところには病気の動物はたまにしか来ません。たまにどころか、この本を読んでいる限りでは、たった一人ではないだろうか。やっていけるのかなあ、と…

『ハムネット』 マギー・オファーレル

ハムネット (新潮クレスト・ブックス) 作者:マギー・オファーレル 新潮社 Amazon アグネスと夫の間には三人の子どもがいる。真ん中のハムネット(双子の兄)は、1596年、11歳のときに黒死病で亡くなった。彼の父親はその四年ほどあとに『ハムレット』という…

『ルクレツィアの肖像』 マギー・オファーレル

ルクレツィアの肖像 (新潮クレスト・ブックス) 作者:マギー・オファーレル 新潮社 Amazon 「 歴史的背景 一五六〇年、十五歳のルクレツィア・ディ・コジモ・デ・メディチは、フェラーラ公アルフォンソ二世デステとの結婚生活を始めるべく、フィレンツェをあ…