『シンデレラはどこへ行ったのか ~少女小説と『ジェイン・エア』~』 廣野由美子

シンデレラはどこへ行ったのか 少女小説と『ジェイン・エア』 (岩波新書) 作者:廣野 由美子 岩波書店 Amazon 現代も読みつがれる、いくつかの古典的少女小説は、若い読者の心に希望を吹き込み、その人生まで変えてしまう何かをもっている。こうした作品群が…

『90歳セツの新聞ちぎり絵』 木村セツ

90歳セツの新聞ちぎり絵 作者:木村 セツ 里山社 Amazon (2019年当時)90歳の木村セツさんのちぎり絵の画集。表紙のおいしそうなハンバーガーも、裏表紙のリアルなブロッコリーも、お正月のお飾りから始まって、春夏秋冬、だるまさんや菜の花、カタツムリや…

『年老いた子どもの話』 ジェニー・エルペンベック

年老いた子どもの話 (Modern&Classic) 作者:ジェニー・エルペンベック 河出書房新社 Amazon 商店街で佇んでいた女の子は、尋ねられて年齢は14歳といったが、名前は言えなかった。身元が分からないので、児童養護施設に入れられた。女の子は、大きい。ぷっく…

『じゅげむの夏』 最上一平

じゅげむの夏 作者:最上一平 佼成出版社 Amazon 「ぼく」ことアキラ、山ちゃん、かっちゃん、シューちゃんは、天神集落に住む小学四年生。四年生が九人しかいない小学校で、そのうち四人が天神集落に住んでいた。まわりは山。田んぼが広がり、泳げる川がある…

『やまをとぶ』 きくちちき

やまをとぶ (岩波の子どもの本) 作者:きくち ちき 岩波書店 Amazon 「ぼくの うちはね やまに かこまれている」 朝日が昇って始まる一日、夕陽がきれいと思える一日。「ぼく」は、空を飛んでいく伝書ばとや、庭に来る鳥、野良猫に呼びかける。うちの犬くろと…

『わが庭の寓話』 ジョルジュ・デュアメル/尾崎喜八

わが庭の寓話 (ちくま文庫 お 27-1) 作者:尾崎 喜八,ジョルジュ デュアメル 筑摩書房 Amazon 詩人デュアメルの庭の、樹木、草花のこと、実りのこと、天気や庭の外のこと、それから、園丁のことや犬や猫、家禽のこと、虫や野鳥を始めとするさまざまな訪問者・…

『フランクフルトへの乗客』 アガサ・クリスティー

フランクフルトへの乗客 (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 96) 作者:アガサ クリスティー 早川書房 Amazon 外交官サー・スタフォード・ナイの乗った旅客機は、悪天候のため、急遽フランクフルトの空港に着陸した。ロンドンへの便を待つ空港待合室で、彼は一人…

『氷上旅日記』 ヴェルナー・ヘルツォーク

氷上旅日記[新装版]:ミュンヘン‐パリを歩いて 作者:ヴェルナー・ヘルツォーク 白水社 Amazon 1974年晩秋、ミュンヘンの著者は、パリ在住の恩人が重病だと知る。「あのひとを死なせるわけにはいかない」「ぼくが歩いていけば、あの人は助かるのだ、と固く信じ…

『暗やみに能面ひっそり』 佐藤まどか

暗やみに能面ひっそり 作者:佐藤 まどか ビーエル出版 Amazon 宗太、10歳の夏休み。かあさんがロンドンに出張するため、彼は、京都の父方の祖父母のもとで一週間過ごすことになった。父母は、四年前に離婚したため、父方の祖父母に会うのも四年ぶりだ。 宗太…

『アミナ』 賀淑芳

アミナ (エクス・リブリス) 作者:賀淑芳 白水社 Amazon 他民族・多言語の国マレーシアで、中国語で書く文学(作者・賀淑芳のように)を、馬華文学というのだそうだ。訳者あとがきの、マレーシア特有の法や慣習など、丁寧な解説にはとても助けられた。きちん…

『聞け!風が』 アン・モロー・リンドバーグ

聞け!風が 作者:アン・モロー・リンドバーグ みすず書房 Amazon 1931年のリンドバーグ夫妻による太平洋調査旅行について書かれた『翼よ、北に』 から二年。1933年、夫妻は大西洋航路開発のための調査飛行を決行する。これは、その帰途最後のいちばん長い航路…

『こしたんたん』 りとうようい

こしたんたん 作者:りとう ようい 絵本館 Amazon 一頭のトラが、ひそかにウサギを追いかけて、藪の中を走っている。ウサギは、水を飲むために立ち止まる。隠れたトラは、これはチャンス! と目玉ぎらぎら、「虎視眈々」と狙いを定めて……。 ところが水場には…

『フォグ 霧の色をしたオオカミ』 マルタ・パラッツェージ

フォグ 霧の色をしたオオカミ 作者:マルタ・パラッツェージ 岩崎書店 Amazon 1880年のロンドン。ストリートチルドレンのクレイは、仲間と三人でテムズ川底の泥の中から「戦利品」を収穫して少しばかりのお金に替えて暮していた。 あるとき、町にサーカスがや…

『冬牧場』  李娟(リー・ジュエン)

冬牧場 作者:李娟,河崎みゆき アストラハウス Amazon 真冬に、極々寒の北から、極寒の南の荒野・冬牧場へ、羊、駱駝、馬、牛を連れて移動するカザフ族遊牧民、ジ―マの家族と著者は、一冬、生活をともにする。彼らの冬の生活を記録するためだ。新疆ウイグル自…

『夢の10セント銀貨』 ジャック・フィニイ

夢の10セント銀貨 (ハヤカワ文庫 FT 2) 作者:ジャック フィニイ 早川書房 Amazon 私たちが暮らすこの世界は、少しずつ異なりながら無数に存在するという。多元世界という考え方なのだ。「この多元世界は、それぞれ大幅に異なっていたり、最も平凡な点でのみ…

『図書館がくれた宝物』 ケイト・アルバス

図書館がくれた宝物 作者:ケイト・アルバス 徳間書店 Amazon 1940年、戦争の夏。たった一人の身内である祖母を亡くした三兄妹(ウィリアム12歳、エドマンド11歳、アンナ9歳)は、弁護士の提案で、小さな町に疎開する。ロンドンより安全であるし、疎開先家族…

1月の読書

1月の読書メーター読んだ本の数:9読んだページ数:2140真昼のユウレイたちの感想幽霊たちのやさしさがしみじみと温かくて、人知れず静かに苦しんでいる人たちが、過去からこんなにも大切に見守られていることに、ほっとする。目に見えても見えなくても、あ…

『真昼のユウレイたち』 

真昼のユウレイたち 作者:岩瀬成子 偕成社 Amazon 四つの短編に共通するのは、幽霊が出てくること。語り手(小学生)は、それを最初は幽霊とは思わない。ちゃんと実体があるし、普通に会話しているし、握手だってできるのだから。幽霊たちは、思い残すこと、…

『ウィンダム図書館の奇妙な事件』 ジル・ペイトン・ウォルシュ

ウィンダム図書館の奇妙な事件 (創元推理文庫) 作者:ジル・ペイトン・ウォルシュ 東京創元社 Amazon ケンブリッジ大学のセント・アガサ・カレッジには、正規の図書館のほかに、もうひとつ、十七世紀の大富豪によって寄贈されたウィンダム図書館がある。寄贈…

『よくできた女(ひと)』 バーバラ・ピム

よくできた女 (文学シリーズ lettres) 作者:バーバラ・ピム みすず書房 Amazon 舞台は戦後まもなくのロンドン。主人公のミルドレッドは教会の教区活動に熱心な、三十代独身の女性である。「よくできた女(ひと)」とは、彼女の友人知人たちによって言われる…

『つきよのアイスホッケー』 ポール・ハーブリッジ(文)/マット・ジェームス(絵)

つきよのアイスホッケー (世界傑作絵本シリーズ) 作者:ポール・ハーブリッジ 株式会社 福音館書店 Amazon 12月、初雪が降る前というのに気温がマイナス20度になる町で、子どもたちは満月の晩を待っている。森の中のビーバー池に、アイスホッケーをやりにいく…

『蒼ざめた馬』 アガサ・クリスティー

蒼ざめた馬 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) 作者:アガサ・クリスティー 早川書房 Amazon ここに、九つの名前が記されたメモがある。霧の夜に殴り殺された神父が隠し持っていたメモだ。彼は、ある婦人の最期の告解を聞き取った後にこのメモを書き、そうして…

『こえてくる者たち:翔の四季 冬』 斉藤洋

こえてくる者たち 翔の四季 冬 作者:斉藤 洋,いとう あつき 講談社 Amazon 『かげろうのむこうで: 翔の四季 夏』『黒と白のあいだで: 翔の四季 秋』に続く、小学五年生の並木翔の冬は、三学期の初めに転校生、鞍森杏がやってきたところから始まる。杏と翔の…

『神様のいる街』 吉田篤弘

神様のいる街 作者:吉田 篤弘 夏葉社 Amazon 手のひらに乗りそうな、この本は、三つの小さな章(物語)が集まって一つの少し大きな物語ができている。 三つのうち、真ん中の物語『ホテル・トロール・メモ』は作者・吉田篤弘さんの知る人ぞ知るの処女作だそう…

『窓辺のこと』 石田千

窓辺のこと 作者:石田 千 港の人 Amazon 『共同通信』に連載したエッセイ『窓辺のこと』を中心に、2017年から2018年までの一年間の作品をまとめたものです。この年、著者は50歳の誕生日を迎え、父を亡くした。選ばれるお題は、身の回りの風物、美味しい食べ…

『ロサリオの鋏』 ホルヘ・フランコ

ロサリオの鋏 (Modern&Classic) 作者:ホルヘ・フランコ 河出書房新社 Amazon 「俺」アントニオが愛したロサリオは、友人エミリオの彼女だった。三人はよく一緒に過ごした。ロサリオが至近距離から銃弾を浴び、瀕死の状態で救急搬送されたとき、付き添ったの…

12月の読書

12月の読書メーター読んだ本の数:11読んだページ数:2923夏のサンタクロース: フィンランドのお話集 (岩波少年文庫 259)の感想フィンランド特有の風土の上で、動物、妖精たちと人びとが活躍する13の物語。森の小屋で、ひとりのおばあさんが糸を紡いでいる。…

『夏のサンタクロース』 アンニ・スヴァン

夏のサンタクロース: フィンランドのお話集 (岩波少年文庫 259) 作者:アンニ・スヴァン,ルドルフ・コイヴ 岩波書店 Amazon この童話集には13のお話が収められている。夏には緑豊かな森、野原、海が、冬には雪や氷に閉ざされて、すっかり姿が異なってしまうフ…

『をんごく』 北沢陶

をんごく 作者:北沢 陶 KADOKAWA Amazon 古瀬統一郎の妻倭子は、あまりに早くあっけなく亡くなった。だから、彼は、巫女に口寄せを依頼した。能力のある巫女だったが、この降霊はうまくいかなかった。巫女は、倭子の死に腑に落ちないものを感じる。その頃か…

『2ひきのかえる そのぼうきれ どうすんだ?』 クリス・ウォーメル

2ひきのカエル そのぼうきれ、どうすんだ? 作者:クリス・ウォーメル 徳間書店 Amazon 大きな池のまんなか、睡蓮の葉っぱの上で、二匹のカエルが会話している。一匹がもう一匹にきく。「なんで また、そんな ぼうきれ かかえてるのさ?」見れば、一匹のカエル…